2009年11月9日月曜日

電子申請の無残な実態

全体の2割が利用率1%未満!

11月8日の朝日新聞の1面トップに、「国の電子申請 非効率」という見出しで、国への行政手続きをインターネットで行う電子申請の実態を同紙が調査した結果が掲載されていた。それによると、総申請数に対する電子申請の利用率が10%未満のものが全64システム中3割あり、1%未満のものが2割弱あったという。

原因は使い勝手の悪さ!

同紙は使い勝手の悪さがその主原因だという。設定画面をクリックすると、いきなり米国のサイトに切り替わり、必要なソフトをダウンロードしろというが、10以上あってどれを選べばいいのか分からない、という例を挙げている。確かに、必要なソフトはXXのバージョンXX以上などと言われても一般には戸惑う人が多いだろう。

また、「電子認証」を必要とするものが多く、それを入手するにはカネと手間がかかるためもあるという。筆者は、所得税の電子申告をしようとしたときの経験を「OHM」に書いた。(注1) 電子申告では住民基本台帳の「住基カード」が必要で、それを読むためのリーダも必要だが、所得税の申告のためにわざわざ住基カードを取得する人がどれだけいるだろうか?

筆者は最近住民票を取りに役所に行ったが、住民票などを発行する自動機は住基カードの他、もっと簡単な自動交付機用カードも印鑑証明のカードも使えるようになっていた。住基カードの必要性は最近ますます減っているようだ。

なぜこんな事態に?

本記事は、電子化を急ぎすぎたことがこういう事態を招いたという。「甘い査定でも何でも予算化できた」と言っている元担当者がいるという。また、入札用の仕様書を「下書きしてほしい」と頼まれたIT業者もいるという。こうして、2003年度以降、開発と運営に2,300億円以上かけて、利用率が極めて悪いシステムが作られたという。

民間企業では考えられないようなシステム開発がなぜ政府で行われたのだろうか? システムの仕様はユーザーやオペレータの立場でレビューし検証するのが常識である。肝心な箇所はプロトタイプを作って操作し、実際に問題がないか確認する。

「ユーザーの立場で」というのは「国民目線で」ということだ。国民目線で政府や官僚が政治を行っているかどうかを監視するのは野党やメディアの仕事だ。したがって、本件についての追求をおろそかにした前野党の民主党や日本のメディアの責任は否定できない。

いまや与党になった民主党には、過去を反省して早急に改善を図ってもらいたいし、野党になった自民党にはユーザーの目での監視を怠らないでもらいたい。そして、他の報道機関のことは知らないが、遅れ馳せながらも、今回の朝日新聞の報道は評価に値すると思う。しかし、これは1回の報道で済む問題ではないので、継続的に力を入れてもらいたい。

そして、何よりも問題は官僚である。失敗は評価に反映される、しかし、失敗を早期にリカバーすれば、それも評価されるのが民間企業の常識だ。失敗を認めず、改善も図らなければ民間企業では追い出される。しかし、従来の官僚は違うようだ。民主党内閣は官僚の人事評価を見直しているようなので今後に期待したい。

(注1) 「これでいいのか? 日本の電子政府」、技術総合誌「OHM」2007年6月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2007/ar0706ohm.htm)

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