2009年11月12日木曜日

PHSはどうなる?

ウィルコムが苦境に!

PHSのサービスを提供しているウィルコムが、今年8月に社長の交代を発表し、9月24日には、私的整理の一種である事業再生ADRの手続を申請して受理された。詳しいことはよく分からないが、要するに、借入金の弁済を一時停止し、その後弁済計画を見直させてもらいたいということのようだ。現在は債務の免除や株式化(Debt-Equity Swap)は考えてないというが、何らか方法で債務負担の軽減が必要になったのだろう。

ウィルコムは現在次世代PHSを推進中だが、その展開が遅れている。今年10月から、東京、大阪、名古屋で正式サービスを始める予定だったが、10月に始まったのは、東京の山手線内の一部で、400台の端末を無料で貸し出すだけだ。これでは正式サービスとはとても言えない。

この計画の遅れが今回の人事異動や事業再生ADRの理由なのだろう。しかし、これだけで問題が解決するわけではなさそうだ。10月30日に発表されたウィルコムの事業計画では、2012年度末には人口カバー率を91%にする予定だが、そのためには2012年までに累計1,113億円の設備投資が必要だという。そして、その資金調達が何とかなったとしてもPHS自身の問題がある。

PHSの問題は?

PHSの将来性については5年前に「OHM」に書いた。(注1) PHSは、かつては簡便な携帯電話としてかなり普及したが、データ通信の比重が大きくなると、どうしても通信速度の面で一般の携帯電話に太刀打ちできない。そして、PHSが特長としていたデータ通信の定額サービスは一般の携帯電話でも行われるようになる。

ウィルコムは通信速度等の改善のため「次世代PHS」を開発した。しかし、それに使われている技術はほとんどLTEと呼ばれる第4世代の携帯電話と共通だ。次世代PHSも標準規格としてITU(国際電気通信連合)に承認されたが、LTEと似て非なる規格が世界的に普及する可能性はまずないだろう。

PHSは一時中国で1億人近くの人に使われていたので、国際標準の一つになると唱える人もいた。しかし、前掲の記事に書いたように、中国でPHSが一時大流行したのは中国の特殊事情のためで、それがいつまで続くかははなはだ疑問だった。

案の定、中国では2008年に通信業界が再編され、第3世代の携帯電話の分担も決まり、PHSは2011年でサービスを終了することになった。2006年に1億人に近かった加入者は、その後減り続け、この9月には5,300万人になったという。

ガラパゴス化に手を貸す総務省?

次世代PHSを始めたのはウィルコムだが、NTTドコモなどの競争者を排除してウィルコムに電波の免許を交付したのは総務省だ。その問題点についてもかつて「OHM」誌上で指摘した。(注2) 総務省はPHSの生みの親なので、他の通信方式との平等な比較を総務省に期待するのは困難なのだ。しかし、もし次世代PHSが失敗に終われば、総務省は責任の一半を免れない。

ウィルコムの最大の株主は投資ファンドのカーライルで、現在60%を保有している。投資ファンドは、将来に期待が持てなくなれば早期に手を引くことを考えるだろう。そのあとを引き受ける者は果たして現れるだろうか? 

ガラパゴス島の絶滅危惧種がまた一つ増えることにならないよう祈るばかりである。

(注1)「PHSに将来はあるか?」、技術総合誌「OHM」2005年1月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2005/0501phs.htm)


(注2)「ガラパゴス脱出なるか?・・・次世代PHS」、技術総合誌「OHM」2008年3月号、オーム社
(http://www.toskyworld.com/archive/2008/ar0803ohm.htm


[後記]

 その後のPHSの状況については下記をご参照下さい。 (12/7/10)
   『小霊通(シャオリントン、中国版PHS)』のその後」(12/7/9)

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