2009年12月25日金曜日

「手綱を緩めた米国政府・・・インターネットの管理」のご紹介

「OHM」2009年12月号に掲載された上記の記事が、小生が運営するウェブサイトに再録されました。

[概要] 米国政府が1998年以来進めていたインターネットの民間移管は、何回も完了時期の延期を繰り返していた。しかし、2009年9月末に突然移管完了が発表された。その裏には、米国の政権交代による一国主義から多国主義への変化、EUからの強硬な要請があったと思われる。しかし、今後の問題も多く、まだ目を離せない。―――全文を読む

2009年12月20日日曜日

「次世代スーパーコンピュータ」の予算は復活したが・・・

生き返った「次世代スーパーコンピュータ」

「事業仕分け」で実質的凍結と判定された「次世代スーパーコンピュータ」の問題について、12月5日の本ブログ「『議論の仕分け』が必要な『次世代スーパーコンピュータ』」で取りあげた。科学技術振興の必要性は十分理解できるが、本プロジェクト自身の内容には問題が多いと記した。

その後、本プロジェクトは12月16日の関係閣僚の折衝で復活することになった。2010年度予算に、当初の要求から40億円減額して、228億円が計上されるという。

前記のブログに記したように、本プロジェクトはすでに「矢は弦を放れた」ものなので、継続もやむを得ないかもしれない。しかし、本プロジェクトの問題としてさらに下記の2点を追加しておきたい。

もはや「世界一」は困難?

事業仕分けの場では、「世界一」の性能を実現することの重要性が主張された。本プロジェクトは2012年に10ペタFlopsの性能を達成することを目標にし、これで「世界一」を狙うのだという。

本プロジェクトが始まった2006年には、世界最高速のスーパーコンピュータがまだ300テラFlops以下だったので、その30倍以上である10ペタFlopsの実現は、目標として十分高いと考えたのかもしれない。しかし、従来のスーパーコンピュータの性能の進歩を外挿すれば、この性能で2012年に世界一になれるかどうかは危ういことがすぐ分かったはずだ。

そして、2009年2月に、IBMがこれを上回る20ペタFlops以上の性能のスーパーコンピュータを2011年に出荷し、2012年に運用に供する予定だと発表した。BlueGeneという、Power系のプロセッサをマルチコア化したLSIを使ったSequoiaというシステムで、ローレンス・リバモア国立研究所へ納入の予定という。

筆者は、数年で1桁近く性能が向上するスーパーコンピュータの世界で、一時的に世界一になることにそんなに意味があるとは思わない。しかし、「次世代スーパーコンピュータ」は、オリンピックなら優勝どころかメダルにも手が届かない可能性がある。

富士通の一般のスーパーコンピュータは別路線?

12月18日の日本経済新聞は、富士通が今後廉価版のスーパーコンピュータの販売に力を入れることになったと報じた。インテル製のMPUを使った数千万円のもので、中堅企業向けだという。

インテル製ということは、「次世代スーパーコンピュータ」に使われるSPARC系ではなく、X86系のMPUだと思われる。これは現在全世界のスーパーコンピュータで最も多く使われていて、2009年11月の統計では上位500システム中の88%を占めている。

富士通は「廉価版」を称するスーパーコンピュータではX86系を使うというが、富士通が2009年7月に日本原子力研究開発機構から受注した200テラFlops(理論ピーク値)のスーパーコンピュータもX86系だ。200テラFlopsと言えば、現在全世界で20位程度の高性能である。現在世界最高速の1.76ペタFlopsのスーパーコンピュータもX86系のプロセッサを使っているように、X86系でも十分高性能が達成できる。

したがって、富士通は中堅企業向けの廉価版に限らず、上位のマーケットでもX86系のスーパーコンピュータを積極的に販売することになると思われる。前記のブログにも記したように、X86系の方がアプリケーション・プログラムのポータビリティなどの点で、ユーザーにもメリットが大きいためもある。

こうして今後の富士通の主力スーパーコンピュータもX86系になると、スーパーコンピュータの世界でSPARCの存在はますます影が薄くなる。

2009年12月19日土曜日

小野寺KDDI社長の発言を傾聴しよう!

「日経コミュニケーション」12月15日号に小野寺 正KDDI代表取締役社長兼会長のインタビューが載っている。その中から、今後の日本の通信事業にとって重要と思われる2点について、私見を交えながらご紹介したい。

垂直統合から水平分業へ

日本の携帯電話は、通信事業者が中心になって垂直統合型のビジネスを展開してきた。通信サービスから、携帯電話端末、インターネット接続、コンテンツに至るまで、すべて通信事業者が企画し、サービスを提供し、機器を販売してきた。

市場が成熟すれば、こういう垂直統合型のビジネスには限界が来て、パソコンなどと同じように水平分業型に移っていくだろうと、今から5年前に、「いつか来た道・・・携帯電話のプラットフォームはどうなる?」に記した。

その後、2007年に、特定の通信事業者とは関係のない、アップルのiPhone、グーグルのAndroidが現れた。これらの来襲(?)で日本の垂直統合型の携帯電話の世界も変わって行くだろうと、「外圧で開国?・・・日本のケータイ」に書いた。

しかし、日本の通信事業者からは、今までそういう声はあまり聞こえてこなかった。

ところが、このインタビュー記事で小野寺社長は言っている。(以下《 》内は同氏の発言の引用)

《上位レイヤーへの進出に当たっては自らやるのも一つの手段だが、パートナとなるはずのメーカーやインテグレータなどと敵対関係を作りかねない。このため、トラフィックが発生するネットワークはKDDIが受け持ち、それ以外はほかの企業と協調し、必要があればKDDIが受け持つことを考えている。》

ここで「上位レイヤー」とは、直接はインタビュアーが言及した「クラウド」だが、小野寺社長の発言の趣旨としては通信網上のアプリケーション全般を含むと考えられる。続けて同氏は言う。

《ネットワーク側からみると、トラフィックを集めてボリュームを大きくすれば単価は下がる。できるだけ多くのトラフィックを集めるためには、競合相手になる企業と協調することも視野に入れている。》

今後は垂直統合にこだわらず、水平分業の利点を生かしたいということだ。

携帯電話のインターネットの世界で、通信事業者が端末の販売からコンテンツの提供までやっているのは、パソコンの世界で言えば、通信事業者がパソコンの販売から検索サイトの運営までやっているのと同じことだ。有線通信の世界では、通信事業者の仕事はあくまで音声やデータの伝送で、伝送される内容には手を出さないのが普通だ。それに引き換え今の携帯電話の世界は、運送会社がトラックで輸送する野菜や魚を確保するため、自社で農業や水産業にまで手を広げているようなものだ。

iPhoneやAndroidの出現で、通信事業者は今後「土管屋」になってしまうと言う人がいるが、通信事業の本来の姿は「土管」の提供のはずだ。高速、高信頼性で、どこでも使える安い土管を提供することが通信事業者の競合力のキーで、端末やコンテンツで同業者と張り合う時代は過去のものになるだろう。

小野寺社長が言うように、今後通信事業者にとって重要なのは、いい端末メーカーやコンテンツ・プロバイダと手を組んで、トラックで運ぶ貨物の量、土管を流れる水の量を増やすことだ。

したがって、今後政府が力を入れる必要があるのは、こういう水平に分業化された世界で、複数のプレイヤーが公平に競争できるような市場の形成である。現在進めているMVNO (Mobile Virtual Network Operator)の市場の育成もその一つだ。そして今後は、携帯電話網と固定電話網が一体になってゆくため、現在NTTが80%近くを占めている光アクセス網の開放も大きい課題になる。

国際競争力の強化

この10月に総務省は通称「ICTタスクフォース」と呼ばれているものを発足させた。それは4部会からなり、第3部会は「国際競争力強化検討部会」である。寺島実郎氏を座長にして、日本を代表する通信会社や通信機メーカーの社長などがメンバーになっている。

何が議論されるのかは知らないが、1990年代のNTTの分割がNTTを弱体化し、ひいては日本の通信事業の国際競争力を弱めたので、NTTの再再編によるNTTの競争力の強化がまず必要だと思っている人がいるかもしれない。

この問題について小野寺社長は言う。

《順番としては、国際競争力よりも(国内での)公正競争条件をどう整備するのかを考えたい。その中で国際競争力の議論もあり得る。》

日本のICT全体にとっては、通信事業者の国際競争力よりも国内の公平な事業環境の方が重要だと言う。なぜか?

《電気通信事業者の国際展開にも大きな疑問がある。電気通信の規制や免許といった条件は、国ごとにばらばらになっているからだ。私には、「電気通信の国際競争力」とは何か、定義がはっきりしていないと感じている。》

《問題は、メーカーの海外進出に寄与するのは誰かということ。電気通信事業者の海外進出に伴って、その国のメーカーが進出してうまくいった例があるのだろうか。》

同氏は、電気通信事業自身の国際展開は困難だと思っているようだ。そのため、ICTの国際競争力の強化が必要だからといって、電気通信事業にその牽引役を期待するのは困難だという。それには次のようなビジネス環境の変化もある。

《海外では通信事業者と一緒にやってきた旧来型の会社が、うまくいかなくなっている。今伸びているのは、IP系の技術を得意とするメーカー。しかし日本にはそうした新興のメーカーが見当たらない。》

最近急速に伸びているのは、リサーチ・イン・モーションのBlackberry、アップルのiPhoneなどだ。しかし、これらの製品は通信事業者の要求で開発されたものではない。こういう分野で日本からも競合力のある製品が出現することが望まれる。しかし、それは通信事業者に期待してもだめで、水平に分割された市場で、端末、ソフトウェアなどについて、それぞれ世界に通用する競合力を持つ企業が現れるしかない。

ということは、この問題は総務省配下のタスクフォースの枠を越えているということでもある。

2009年12月5日土曜日

「議論の仕分け」が必要な「次世代スーパーコンピュータ」

「事業仕分け」に反論の大合唱

11月13日に、行政刷新会議の「事業仕分け」が、「次世代スーパーコンピュータ」の予算に対して「限りなく予算計上見送りに近い縮減」との判定を下した。これに対し、科学者の団体などから猛反発が相次いだ。主なものを挙げよう。

11月18日には「計算基礎科学コンソーシアム」という物理学の研究者の交流団体が緊急声明を出した。基礎科学の研究にスーパーコンピュータは不可欠であり、「次世代スーパーコンピュータ」はその要となるものなので、その開発の凍結は日本の国際競争力をそぐことになると主張している。

11月19日には、「総合科学技術会議」(議長:鳩山首相)の有識者議員8名が緊急提言を発表した。短期的な費用対効果のみを求める議論は、長期的視点から推進すべき科学技術にはなじまないという。

11月25日には、ノーベル賞受賞者ら5名が共同声明を発表した。優秀な人材を絶え間なく研究の世界に吸引することが、「科学技術創造立国」にとって不可欠であり、現在進行中の「事業仕分け」は若者を学術・科学技術の世界から遠ざけてしまうという。

そして11月26日には、ノーベル賞受賞者ら6名が首相官邸を訪れ、鳩山首相と会談した。資源の乏しい我が国にとっては、科学技術の脆弱化は国家の衰退を意味すると、今回の事業仕分けを厳しく批判し、鳩山首相はたじたじだったと報じられた。

議論の仕分けが必要だ!

どの主張も一応もっともに聞こえる。しかし、よく考えてみると、これらの主張は下記の四つの問題を「いっしょくた」にして論じている。

[問題1]科学技術の推進に政府としての注力が必要か否か?

[問題2]それが必要な場合、スーパーコンピュータは必要か否か?

[問題3]それが必要な場合、日本製であることが必要か否か?

[問題4]それが必要な場合、現計画は妥当か否か?

例えば、ノーベル賞受賞者の共同声明は[問題1]の科学技術の推進の必要性の背景を縷々述べ、だから今回の「事業仕分け」の結論には問題があるという。[問題2]~[問題4]については触れずに、いきなり[問題4]の結論に飛んでいる。事業仕分けの主要な論点は[問題1]ではなく[問題3]、[問題4]である。世界的科学者の割には余り論理的ではない。そして、総合科学技術会議の緊急提言は全文を読んでないが、これも同様の議論を展開しているようだ。

計算基礎科学コンソーシアムの緊急声明は、[問題2]のスーパーコンピュータの必要性を詳述した上で、いきなり、「次世代コンピュータ」はその要の位置にあるので、その迅速かつ着実な推進が重要だという。これも[問題3]、[問題4]には触れずに[問題4]の結論にジャンプする。

「次世代スーパーコンピュータ」を今回の事業仕分けの俎上に乗せた人や、これを実質的凍結とした仕分け人の頭にあったのは、[問題1]、[問題2]ではなく、[問題3]、[問題4]であろう。したがって、[問題3]、[問題4]に触れずに事業仕分けの結論が不当だと主張するのは、論点がずれている。

ではなぜ、[問題3]、[問題4]が問題なのだろうか?

スーパーコンピュータが日本製であることは必要か? ([問題3])

昔は、スーパーコンピュータと言えばユーザーの特注品が多かった。しかし現在はメーカーが商品として販売している、いわゆるカタログ製品が圧倒的に多い。毎年6月と11月に「TOP500」という、全世界のスーパーコンピュータの上位500システムの番付が発表される。今年11月に発表された上位30システムについて見ると、中国の大学が開発した1機種を除き、あとはすべてメーカーのカタログ製品かカタログ製品を組み合わせてまとめたものだ。つまり、ほとんどがパソコンやサーバーと同じように市販されているIT製品なのだ。

そして、同じく上位30システムについて見ると、中国、ロシア、フランスで開発された4システムを含めて、中核になるプロセッサのLSIはすべて米国のインテル、AMD、IBMの3社から購入したものなので、自国製に固執する意味はあまりない。

日本のIT産業の隆盛のためには、スーパーコンピュータについても、もちろん日本製のものがあることが望ましい。しかし、それは他のIT製品と同様、世界のスーパーコンピュータの市場で競合力のあるものでなければならない。もし赤字続きで経営の足を引っ張り続けるようなものなら、企業にとって事業を継続する意味はないし、政府がそれを支援し続けることは税金の無駄遣いになる。したがって、スーパーコンピュータを自力で開発し続けて世界中に販売し、全世界で事業継続に必要なシェアを獲得する覚悟を持ったメーカーが現れることが先決である。政府が何がしかの支援をするとすれば、まともな価格でできるだけ多くそのメーカーから購入することだ。

スーパーコンピュータのユーザーにとって重要なのは、高性能で安いスーパーコンピュータを入手することであって、それがどこの国で作られたものかは関係ない。我々が、場合によってはヒューレット・パッカードやデルのパソコンやサーバーを購入するのと同じことだ。

現在の「次世代スーパーコンピュータ」計画は妥当か? ([問題4])

現在、スーパーコンピュータの世界でも汎用のマイクロプロセッサを使ったものが主流になっている。前出のこの11月の統計では、上位500システム中の88%がインテルのX86系(AMDを含む)で、10%がIBMのPower系(Blue Gene、Roadrunnerを含む)であり、その他は2%に過ぎない。上位30システムに限れば、80%がX86系、20%がPower系で、その他は皆無だ。

ところが、「次世代コンピュータ」はSPARCというプロセッサを使う計画だ。SPARCはサン・マイクロシステムが開発したRISCで、2000年頃には上位500システム中100システム以上で使われていた。しかし、その後次第に減り、この11月の統計では富士通製の2システムだけだ。サン・マイクロシステムズのスーパーコンピュータは上位500システム中に11登場するが、すべてX86系でSPARC系は皆無だ。また、サン・マイクロシステムズはここ数年、スーパーコンピュータの市場も狙ってRockという16コアのSPARC系プロセッサを開発していたが、今年に入ってその開発を中止したといわれている。サン・マイクロシステムズは今年オラクルに買収されることになったので、SPARC系のスーパーコンピュータの市場に再参入する可能性は低いだろう。

したがって、SPARC系のスーパーコンピュータは全世界で富士通1社になる見通しだ。1社では、マルチコアのLSIを継続的に開発し、その開発費を負担できるだけのシェアを世界中で獲得するのは非常に厳しいと思われる。

シェアが少ないと、スーパーコンピュータのアプリケーション・プログラムのベンダーに敬遠されて、その品揃えに支障を来たす。また、スーパーコンピュータのアプリケーション・プログラムは、性能を限界まで引き出そうとするため、プロセッサの構成に依存したものになる。そのため、同類のプロセッサを使ったスーパーコンピュータのセンターが少ないと、他のサンターを使うときプログラムの書き換えが必要になる可能性が増え、ユーザーに敬遠される。これらの点も今後のSPARC系スーパーコンピュータのシェアの拡大を困難にする。

したがって、現時点では、今までのしがらみがないなら、SPARC系でなくX86系を採用するのが妥当であろう。しかし、もう矢は弦を放れてしまっている。現時点でどう判断すべきかは極めて悩ましい問題だ。

                ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

いずれにしても、問題点を少なくとも上記の四つにきちんと分けて議論しないと、議論が錯綜して混乱する。「事業仕分け」の前に「議論の仕分け」がまず必要である。

[追記] 「『次世代スーパーコンピュータ』の予算は復活したが・・・」 (09/12/20)もご参照下さい。

2009年12月2日水曜日

「中央から地方へ」の落とし穴に落ちた電子申請

電子申請、19府県で休止・縮小!

11月9日の本ブログ「電子申請の無残な実態」で、現在の電子申請の利用率の低迷を報じた11月8日の朝日新聞の記事を紹介した。その後、11月30日の同紙に、その続報として、地方自治体が苦戦している状況が掲載された。それによれば、現在47都道府県中の19府県で、電子申請の全面休止や縮小を実施または予定しているという。

その主原因は財政難だということだが、電子申請は利用者の利便性の向上とともに人件費等の経費の削減を図るものなので、うまく行けば「儲かる」はずである。それがうまく行かないは、どこかに問題があるからだ。最大の問題は、もちろん前回報道された「利用率1%未満のシステムが2割弱」という極端な利用率の低さだ。これでは、電子申請システムのコストとそれを利用しない人に対応するための人件費を二重に負担することになるので、儲かるどころではない。

しかし、今回の記事によると、電子申請システムのコスト自身にも大いに問題があるようだ。

ASPの利用で運用経費が激減!?

今までは都道府県ごとに電子申請システムの開発をIT業者に発注していたという。これでは、要求仕様が自治体ごとに違ってしまい、同一業者でも個別に開発することになるので割高になってしまう。住民票や印鑑証明の申請処理が自治体ごとにそんなに違う必要はないので、はじめから計画すれば相当な部分が共通にできたはずである。

また、今までは各自治体の庁舎内にコンピュータを設置していたという。電子申請の件数は限られているため、全国で何箇所かのセンターにまとめて処理する方が効率がいいはずだ。

最近はNECの「電子申請ASP (Application Service Provider)サービス」を使うことによって運用経費を劇的に下げた例が相次いでいるという。中には1/10になった例もあるということだ。ASPとは客先の端末からネットワークを介してソフトウェアを使ってもらう事業形態である。こういうサービスを使えば、ソフトウェアの重複開発もなく、また稼働率の低いシステムを自治体ごとに抱える必要もない。そのため経費が激減できたというが、要するに元が高すぎただけだ。

「中央から地方へ」の落とし穴

ASPのようなサービスを利用するか、または地方自治体の共同のセンターのようなものを設立するかは別にして、電子申請についてはソフトウェアもハードウェアも全国的にまとめた方が効率がいいことは、少し考えればはじめから分かったはずだ。申請者に窓口の担当者が対応していたときは地方自治体ごとに処理がバラバラでもたいした問題はなかった。しかし、いったん電子化されると、処理が統一されているかいないかで大差が生じる。

政府は2000年以来、e-Japanを旗印に日本のITの推進を図ってきた。その重点テーマの一つが電子申請などを含む電子政府で、これは当を得たものだったと思う。しかし、その進め方には大いに問題があったようだ。総務省から地方に電子申請を行えとの強い指導があったということだが、何の戦略もなくこういう圧力をかければどういうことになるかを、総務省は想像できなかったのだろうか?

筆者はオーム社の雑誌の2004年5月号の「『中央から地方へ』の落とし穴」という記事の最後に次のように書いた。

《小泉首相は「中央から地方へ」、「地方でできることは地方へ」と言い続けている。もちろんそうすべきものもあるのは確かだが、上述のように、電子政府については「地方から中央へ」を推進しないといけない面もある。ただ闇雲に「中央から地方へ」と突き進み、似て非なるウェブサイト(注:行政ポータルサイトのこと)が全国にできてしまったら、とんでもない落とし穴に陥ることになる。》

不幸にして筆者の危惧が現実になってしまったようだ。

電子申請を含めた電子政府の実現なしに、日本がITの一流国と言われるようになる道はない。e-Japanを推進した母体は森内閣、小泉内閣の下でのIT戦略会議である。これは現在開店休業状態だというが、これをまず再開する必要がある。そして、電子政府については、使い勝手の悪さからくる利用率の低迷や、地方へのブン投げによる無駄な費用の発生について、まず猛省してもらう必要がある。

民主党政権に過去を洗い直してもらわなければならない仕事はまだまだあるようだ。