2009年12月20日日曜日

「次世代スーパーコンピュータ」の予算は復活したが・・・

生き返った「次世代スーパーコンピュータ」

「事業仕分け」で実質的凍結と判定された「次世代スーパーコンピュータ」の問題について、12月5日の本ブログ「『議論の仕分け』が必要な『次世代スーパーコンピュータ』」で取りあげた。科学技術振興の必要性は十分理解できるが、本プロジェクト自身の内容には問題が多いと記した。

その後、本プロジェクトは12月16日の関係閣僚の折衝で復活することになった。2010年度予算に、当初の要求から40億円減額して、228億円が計上されるという。

前記のブログに記したように、本プロジェクトはすでに「矢は弦を放れた」ものなので、継続もやむを得ないかもしれない。しかし、本プロジェクトの問題としてさらに下記の2点を追加しておきたい。

もはや「世界一」は困難?

事業仕分けの場では、「世界一」の性能を実現することの重要性が主張された。本プロジェクトは2012年に10ペタFlopsの性能を達成することを目標にし、これで「世界一」を狙うのだという。

本プロジェクトが始まった2006年には、世界最高速のスーパーコンピュータがまだ300テラFlops以下だったので、その30倍以上である10ペタFlopsの実現は、目標として十分高いと考えたのかもしれない。しかし、従来のスーパーコンピュータの性能の進歩を外挿すれば、この性能で2012年に世界一になれるかどうかは危ういことがすぐ分かったはずだ。

そして、2009年2月に、IBMがこれを上回る20ペタFlops以上の性能のスーパーコンピュータを2011年に出荷し、2012年に運用に供する予定だと発表した。BlueGeneという、Power系のプロセッサをマルチコア化したLSIを使ったSequoiaというシステムで、ローレンス・リバモア国立研究所へ納入の予定という。

筆者は、数年で1桁近く性能が向上するスーパーコンピュータの世界で、一時的に世界一になることにそんなに意味があるとは思わない。しかし、「次世代スーパーコンピュータ」は、オリンピックなら優勝どころかメダルにも手が届かない可能性がある。

富士通の一般のスーパーコンピュータは別路線?

12月18日の日本経済新聞は、富士通が今後廉価版のスーパーコンピュータの販売に力を入れることになったと報じた。インテル製のMPUを使った数千万円のもので、中堅企業向けだという。

インテル製ということは、「次世代スーパーコンピュータ」に使われるSPARC系ではなく、X86系のMPUだと思われる。これは現在全世界のスーパーコンピュータで最も多く使われていて、2009年11月の統計では上位500システム中の88%を占めている。

富士通は「廉価版」を称するスーパーコンピュータではX86系を使うというが、富士通が2009年7月に日本原子力研究開発機構から受注した200テラFlops(理論ピーク値)のスーパーコンピュータもX86系だ。200テラFlopsと言えば、現在全世界で20位程度の高性能である。現在世界最高速の1.76ペタFlopsのスーパーコンピュータもX86系のプロセッサを使っているように、X86系でも十分高性能が達成できる。

したがって、富士通は中堅企業向けの廉価版に限らず、上位のマーケットでもX86系のスーパーコンピュータを積極的に販売することになると思われる。前記のブログにも記したように、X86系の方がアプリケーション・プログラムのポータビリティなどの点で、ユーザーにもメリットが大きいためもある。

こうして今後の富士通の主力スーパーコンピュータもX86系になると、スーパーコンピュータの世界でSPARCの存在はますます影が薄くなる。

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