2009年12月19日土曜日

小野寺KDDI社長の発言を傾聴しよう!

「日経コミュニケーション」12月15日号に小野寺 正KDDI代表取締役社長兼会長のインタビューが載っている。その中から、今後の日本の通信事業にとって重要と思われる2点について、私見を交えながらご紹介したい。

垂直統合から水平分業へ

日本の携帯電話は、通信事業者が中心になって垂直統合型のビジネスを展開してきた。通信サービスから、携帯電話端末、インターネット接続、コンテンツに至るまで、すべて通信事業者が企画し、サービスを提供し、機器を販売してきた。

市場が成熟すれば、こういう垂直統合型のビジネスには限界が来て、パソコンなどと同じように水平分業型に移っていくだろうと、今から5年前に、「いつか来た道・・・携帯電話のプラットフォームはどうなる?」に記した。

その後、2007年に、特定の通信事業者とは関係のない、アップルのiPhone、グーグルのAndroidが現れた。これらの来襲(?)で日本の垂直統合型の携帯電話の世界も変わって行くだろうと、「外圧で開国?・・・日本のケータイ」に書いた。

しかし、日本の通信事業者からは、今までそういう声はあまり聞こえてこなかった。

ところが、このインタビュー記事で小野寺社長は言っている。(以下《 》内は同氏の発言の引用)

《上位レイヤーへの進出に当たっては自らやるのも一つの手段だが、パートナとなるはずのメーカーやインテグレータなどと敵対関係を作りかねない。このため、トラフィックが発生するネットワークはKDDIが受け持ち、それ以外はほかの企業と協調し、必要があればKDDIが受け持つことを考えている。》

ここで「上位レイヤー」とは、直接はインタビュアーが言及した「クラウド」だが、小野寺社長の発言の趣旨としては通信網上のアプリケーション全般を含むと考えられる。続けて同氏は言う。

《ネットワーク側からみると、トラフィックを集めてボリュームを大きくすれば単価は下がる。できるだけ多くのトラフィックを集めるためには、競合相手になる企業と協調することも視野に入れている。》

今後は垂直統合にこだわらず、水平分業の利点を生かしたいということだ。

携帯電話のインターネットの世界で、通信事業者が端末の販売からコンテンツの提供までやっているのは、パソコンの世界で言えば、通信事業者がパソコンの販売から検索サイトの運営までやっているのと同じことだ。有線通信の世界では、通信事業者の仕事はあくまで音声やデータの伝送で、伝送される内容には手を出さないのが普通だ。それに引き換え今の携帯電話の世界は、運送会社がトラックで輸送する野菜や魚を確保するため、自社で農業や水産業にまで手を広げているようなものだ。

iPhoneやAndroidの出現で、通信事業者は今後「土管屋」になってしまうと言う人がいるが、通信事業の本来の姿は「土管」の提供のはずだ。高速、高信頼性で、どこでも使える安い土管を提供することが通信事業者の競合力のキーで、端末やコンテンツで同業者と張り合う時代は過去のものになるだろう。

小野寺社長が言うように、今後通信事業者にとって重要なのは、いい端末メーカーやコンテンツ・プロバイダと手を組んで、トラックで運ぶ貨物の量、土管を流れる水の量を増やすことだ。

したがって、今後政府が力を入れる必要があるのは、こういう水平に分業化された世界で、複数のプレイヤーが公平に競争できるような市場の形成である。現在進めているMVNO (Mobile Virtual Network Operator)の市場の育成もその一つだ。そして今後は、携帯電話網と固定電話網が一体になってゆくため、現在NTTが80%近くを占めている光アクセス網の開放も大きい課題になる。

国際競争力の強化

この10月に総務省は通称「ICTタスクフォース」と呼ばれているものを発足させた。それは4部会からなり、第3部会は「国際競争力強化検討部会」である。寺島実郎氏を座長にして、日本を代表する通信会社や通信機メーカーの社長などがメンバーになっている。

何が議論されるのかは知らないが、1990年代のNTTの分割がNTTを弱体化し、ひいては日本の通信事業の国際競争力を弱めたので、NTTの再再編によるNTTの競争力の強化がまず必要だと思っている人がいるかもしれない。

この問題について小野寺社長は言う。

《順番としては、国際競争力よりも(国内での)公正競争条件をどう整備するのかを考えたい。その中で国際競争力の議論もあり得る。》

日本のICT全体にとっては、通信事業者の国際競争力よりも国内の公平な事業環境の方が重要だと言う。なぜか?

《電気通信事業者の国際展開にも大きな疑問がある。電気通信の規制や免許といった条件は、国ごとにばらばらになっているからだ。私には、「電気通信の国際競争力」とは何か、定義がはっきりしていないと感じている。》

《問題は、メーカーの海外進出に寄与するのは誰かということ。電気通信事業者の海外進出に伴って、その国のメーカーが進出してうまくいった例があるのだろうか。》

同氏は、電気通信事業自身の国際展開は困難だと思っているようだ。そのため、ICTの国際競争力の強化が必要だからといって、電気通信事業にその牽引役を期待するのは困難だという。それには次のようなビジネス環境の変化もある。

《海外では通信事業者と一緒にやってきた旧来型の会社が、うまくいかなくなっている。今伸びているのは、IP系の技術を得意とするメーカー。しかし日本にはそうした新興のメーカーが見当たらない。》

最近急速に伸びているのは、リサーチ・イン・モーションのBlackberry、アップルのiPhoneなどだ。しかし、これらの製品は通信事業者の要求で開発されたものではない。こういう分野で日本からも競合力のある製品が出現することが望まれる。しかし、それは通信事業者に期待してもだめで、水平に分割された市場で、端末、ソフトウェアなどについて、それぞれ世界に通用する競合力を持つ企業が現れるしかない。

ということは、この問題は総務省配下のタスクフォースの枠を越えているということでもある。

0 件のコメント:

コメントを投稿