2010年1月26日火曜日

電子書籍に備えて出版社が大同団結!

出版社21社が団結!

1月13日の朝日新聞によると、日本の大手出版社21社が「日本電子書籍出版社協会」(仮称)という組織を2月に発足させるという。米国でアマゾンの電子書籍用端末「キンドル」が人気を博しているので、その日本語版が日本に上陸する事態に備えて、電子書籍に関連する権利を確保しておくのが目的だという。黒船が来航する前にお台場を築いておこうということのようだ。また本協会は、電子書籍のデータ・フォーマットに関する規格の制定や著作者との契約のモデル作りなども進めるという。

本協会は今後の電子書籍に対してどういう意味を持つのだろうか?

出版社の危機意識は?

同紙によれば、大手出版社幹部が、「アマゾンが著作者に直接交渉して電子書籍市場の出版権を得れば、その作品を最初に本として刊行した出版社は何もできない」と言っているという。

その背景には日本の著作権法がある。日本の著作権法上の「出版」は、印刷物などの物理媒体としての複製に限られ、データとして配信すること、つまり電子書籍として出版することは含まないと解釈されている。そのため、たとえ著作者が出版社に「出版権」を与えても、出版社はそれだけでは電子書籍として出版できず、また、著作者はその著作物を自由に他の業者を通じて電子書籍として出版できる。

出版物に対する出版社の編集者の関与の度合いは、日本語表記をその出版社の標準的表記法に合わせる程度から、ゴーストライターに近いものまで千差万別だが、程度の差はあっても、最終的な出版物は著作者と編集者の共同の成果物だ。

したがって、編集者による編集作業を経た著作物を、著作者が勝手に他の業者を通じて電子出版し、元の出版社は何の分け前にも預かれなければ、元の出版社はたまったものではない。そのため、上記のような出版社の危機感にも一理ある。

電子書籍のメリットは?

ウェブの出現によって、個人が容易に自分の著作物をウェブ上で出版できるようになった。取りとめのない個人の日記の類から、読みごたえのある文学作品や評論までさまざまだが、個人の著作物が多数ウェブで公開されている。

このように、ウェブで公開すること自体は比較的容易だが、それをウェブ上の流通機構に乗せて有料で販売するには、それなりの仕組みが必要だ。そのため、ウェブ上の「自費出版社」のようなものが過去にも多数あった。

最近では、例えばアマゾンは、「ディジタル・テキスト・プラットフォーム」という、電子書籍を自費出版する仕組みを用意している。これを使えば、HTMLなどのフォーマットで自分の著作物をインターネットでアマゾンに送れば、電子書籍としてアマゾンの販売ルートに乗せてくれる。販売価格は著作者が自由に決めることができ、売れると、その35% (下記[追記]参照)を著作者が受け取り、残りの65%をアマゾンが取る。著作者の取り分は、出版社が発行する書籍の場合より遙かに多い。

そして、電子書籍の場合は、紙、印刷、製本、運送、倉庫の費用や金利負担などが不要なので、その分販売価格を安くできる。

このように、著作者にとっては印刷物の本より高い収入を得られ、読者にとっては本が安く手に入るのが電子書籍のメリットだ。したがって、これらのメリットを生かし、かつ出版社の正当な権利も保証する方法を確立する必要がある。

出版社にも分け前を!

まず、著作権法で電子書籍の扱いを明確にする必要がある。その上で、個々の出版権の設定の契約に当たって、著作者と出版社の間で電子書籍の出版の扱いを具体的に取り決めることになるだろう。

その際、前記のように、最終的な著作物は著作者と編集者の共同の成果物なので、出版社にも編集者の貢献度に応じた権利が認められるべきだ。また、出版社は、著作物のディジタル・データを所有していることが多く、電子書籍としての刊行にはそのディジタル・データを使うのが合理的なので、ディジタル・データについても出版社の権利が認められるべきだ。

出版権の契約に当たっては、電子書籍について出版社がこれらの正当な権利に対する対価を得ることを認め、電子書籍のロイヤルティを著作者と出版社の間で適正に按分する方法を取り決めておくべきだ。今回設立される組織がこういった契約方法のモデル作りを進めるなら、非常に有意義なことだと思う。

電子書籍の許諾権は著作者に!

朝日新聞の記事に、「電子書籍は、21社がそれぞれの著作者から許諾を取ったうえで、販売業者のサイト(ネット書店)にデジタルデータとして売る」という記述がある。つまり、出版社が電子書籍化の権利を全面的に確保するというのだ。これが今回の組織の関係者の意見なのか、記者の憶測なのかはっきりしないが、もしこのようになると電子書籍の市場は全面的に従来の出版社に押さえられてしまう。

そうなれば、著作者と電子書籍の販売業者の間で出版社による中間搾取が行われ、電子書籍のメリットである、著作者の取り分の増大、本の価格の低減が失われてしまう恐れがある。これは、電子書籍の市場の健全な発展を妨げることになる。

そのため、出版物の電子書籍としての二次利用の許諾権はあくまで原著作者が持つようにすべきだと思う。出版社が二次利用に際して応分の対価を受け取るのはよいが、出版社に二次利用を許諾したり、あるいは拒否したりする権利を持たせるべきではない。

著作権者は、必要があれば組織を結成して、こういう動きに対抗する必要があるのではないだろうか?

[追記] (2010/1/31) 2010年1月20日にアマゾンは著作者(及び出版社)の取り分を、一定の条件の下に70%に引き上げると発表した。これは電子書籍も扱えるアップルの新携帯端末(1月27日に"iPad"として発表された)に対抗するためと報道された。

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