2010年3月16日火曜日

ウィルコム再生計画の疑問点


2社に分割して対応

PHSの通信事業者であるウィルコムは、「PHSはどうなる?」 (2009/11/12)に記したように、昨年夏以来経営苦境に陥っていた。そして今年1月には、「ソフトバンクがウィルコムを獲得!?」 (2010/1/18)に記したように、ソフトバンクが支援に乗り出すと一部で報道された。

この3月12日に、ウィルコム、アドバンテッジパートナーズ、ソフトバンクが連名で、ウィルコムの再生計画を正式に発表した。(1) この計画の関係者の調整に当たった企業再生支援機構も、同日、同機構による支援の顛末を発表した。(2)

発表によると、次世代PHS (XGP)は、ソフトバンク、アドバンテッジパートナーズ、その他の企業が出資する新会社に移管することになったという。ウィルコムは現行のPHS事業に専念することになる。

アドバンテッジパートナーズはウィルコムにも出資するが、ソフトバンクはウィルコムには出資しない。つまり、ウィルコムは新会社ともソフトバンクとも資本関係を持たない。

ウィルコムでは従来、現在のPHSの基地局をXGPにも活用するとともに、現PHSのユーザーをXGPで引き継ぐことを計画していた。この従来の計画は、PHSとXGPを資本関係がない別会社が担当することになるとどうなるのだろうか?

PHSのユーザーをどうするつもり?

PHSのユーザーを取りこぼしなくXGPに移行させるには、XGPの展開と歩調を合わせてPHSの新サービスを計画的に縮小する必要がある。また、端末機器やアプリケーション・ソフトのベンダーにも両者の並行サポート期間を経て、順次XGPに力を注いでもらわなければならない。これらのPHS、XGP間の調整は、両者が別会社では極めて困難になる。

企業再生支援機構の発表資料には、「PHS事業については・・・3G MVNO回線(他キャリア回線活用)への切替促進等によって顧客基盤の維持・促進を図る」とある。(2) また、同機構は記者会見で、「XGPなしでもウィルコムが再生できるか?」との質問に対して、「XGPがなければウィルコムは再生しないというわけではない」と答えている。(3)

これらの点から同機構は、現在のPHSのユーザーをXGPに移行させる必要性をあまり感じてないようだ。しかし、他の携帯電話の回線を使ったMVNOでは、PHSの最大の特徴であるマイクロセルのメリットがなくなる。現在、PHSは医療機関などで広く使われているが、これはマイクロセルの特長である電磁波の弱さを生かしたものだ。したがって、他の回線を使ったMVNOでは、現在のPHSの市場を引き継ぐのは困難になる。

XGPはどうなる?

企業再生支援機構は、事業再生計画の説明で、PHS事業について5行にわたって説明した後、XGP事業については、「他方、XGP事業は、スポンサーが出資する新会社に移管する予定である」と1行だけだ。(2)

そして、同機構は記者会見で、XGPの免許を返上するという選択肢が採られなかった理由として、「ソフトバンクの関心が高かった。わざわざ返上するよりも続けてもらう方がいいと考えた」と説明している。(3)

また、同機構がPHS事業の再生上、XGPの必要性を認めてないのは前述の通りだ。

今回の再生計画で、同機構の念頭にあるのはもっぱらPHS事業だ。同機構の立場としては当然かもしれないが、XGPについては免許返上の選択肢もあったと、はなはだ冷淡だ。XGPについてはソフトバンクなどに任せるとのスタンスである。

ではソフトバンクはどうか? 

同社は、今回の再生計画発表の取材に、XGPのサービス開始時期について、「我々だけで決められる話ではない(が、)2011年度ごろには開始したい」と言っている。(4) まだ明確な日程計画は立ってないようだ。

昨年春には、ウィルコムはXGPの商用サービスを2009年10月に開始すると言っていた。これがもし2012年3月になれば、2年半の遅れだ。ソフトバンクはXGPの推進にあまり熱意があるようには見えない。

すでに、北欧では昨年末に第4世代のLTEのサービスが始まり、今年末には日本でもNTTドコモがLTEのサービスを開始する予定だ。2012年には世界のモバイル通信の市場が大きな変化を遂げていると思われる。PHSの後継市場からも期待されなくなった現在、果たしてXGPに出番はあるのだろうか?

ソフトバンクの真の狙いは?

ソフトバンクは、今回の再生計画に乗り出した狙いは「通信基地局展開のスピードアップとコスト削減」だと言っているという。「ウィルコムが現在基地局を設置している場所にソフトバンクモバイルの基地局を設置したい。・・・ウィルコムは日本全国に約16万の基地局を設置しており、この場所を活用して通信エリアを強化したい考えだ」という。(4)

しかし、ソフトバンクの狙いは果たしてこれだけだろうか? ソフトバンクは、前述のように、XGPの推進にはあまり熱意がないように見えるが、XGP用の2.5GHzの周波数帯は喉から手が出るほど欲しいはずだ。同社は2007年にこの周波数帯の免許を総務省に申請したが、選に漏れた。それが今回図らずも手に入るのだ。

同社は、次世代のLTEを含めたサービスの拡大に、この周波数帯を活用したいと考えているのではないだろうか? 

(1) 「ウィルコムの再生支援に関する基本合意書の締結について」、2010年3月12日、ウィルコム、アドバンテッジパートナーズ、ソフトバンク
(2) 「株式会社ウィルコムに対する支援決定について」、2010年3月12日、株式会社企業再生支援機構
(3) 「ウィルコムが会社更生手続き開始、XGP事業は別会社に」、ケータイWatch、2010年3月12日、Impress Watch
(4) 「ソフトバンク、ウィルコム支援の狙いは『通信基地局展開のスピードアップとコスト削減』」、cnet Japan、2010年3月12日、朝日インタラクティブ

[後記]

上記の「同社は、次世代のLTEを含めたサービスの拡大に、この周波数帯を活用したいと考えているのではないだろうか?」との推測は、後日その通りだったことが判明した。「ソフトバンクが中国方式を採用!?」(ブログ、2010/5/3)をご参照下さい。
(12/8/12) 

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