2012年12月31日月曜日

「アップルはどこへ行く?」のご紹介

オーム社の「OHM201212月号に掲載された上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要] 2012年9月に発売されたiPhone 5では、従来のグーグル地図に替ってアップルが自社開発した地図を使うようになった。しかし、それは誤りだらけだった。アップルが地図の切り替えを急いだわけは? プラットフォームとコンテンツの関係の問題は?
(本記事執筆後の展開も追記)
 
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2012年12月30日日曜日

The Dailyの教訓



The Dailyが廃刊に

ニューズ社が20112月に創刊した、The Dailyというインターネットで配信される日刊紙が、201212に廃刊になった。

The Dailyは、ニューズ社の創業者のルパート・マードック氏が、明日の新聞のモデルになるものを作るのだと、巨費を投じてまったく新たに発行したものである。それが2年弱で廃刊になってしまった。まず、当初の目論見とその後の展開を見てみよう。

廃刊への道

マードック氏は創刊時の記者会見で、100万人以上の定期購読者を想定していると語った。(1) 年間購読料が40ドルなので、購読料だけで年間4,000万ドル以上の売り上げになる。初期投資に3,000万ドルを投じ、年間経費は2,600万ドルの見通しだという。(1) したがって、100万人規模の読者が確保できれば、3年目には黒字になるはずだった。

ところが、20127月の定期購読者は10万人に過ぎないという。(2) 目標の10分の1以下である。これでは購読料収入は年間400万ドルに過ぎず、初期投資の回収どころか、年間経費にも遠く及ばない。年間約3,000万ドルの赤字だそうだ。(2)

これでは経営が成り立たないため、20127月には170人いた要員の3分の1弱を減らした。(3) それでも今後の経営の見通しが立たないため、撤退を決断したのだろう。

The Dailyの廃刊に当たってマードック氏は次のように言っている。(4)

「創刊時から、The Dailyはディジタル出版での大胆な実験であり、革新の実現手段だった。しかし、不幸にして、このビジネスモデルが長期間にわたって継続可能であることを確信するに十分な購読者を、早期に獲得することはできなかった。」

どうしてこのように当てが外れたのだろうか?

当初から予想された苦戦

実は、小生は「電子書籍は新聞・雑誌にはなじまない?」(オーム社「OHM」、20109月号)に記したように、元々新聞・雑誌の電子書籍化には懐疑的だった。

そのため、The Dailyの発刊直後、「“The Daily”は成功するか?(2011/2/9)に、その成功は疑問だと記した。そこに挙げた主な理由は、要約すると次の通りである。

(a) インターネットで配信されるニュースは常時最新情報に更新されることが期待されるが、The Dailyは基本的に1日1回しか配信されない。

(b) インターネットで新聞を読む人は、読みたい記事だけダウンロードして読み、不要なダウンロードを避けたいが、The Dailyは全記事を一括して配信する。

(c) 使用できる端末がiPadだけである。

これでは読者に受け入れられないのではないだろうかというのが、小生の率直な感想だった。

本件から何を学ぶべきか?

上記の記事に次のように記した。

「オンラインで配信するなら、そのメリットを十分に生かさないと競争に負けてしまう。従来の日刊紙の、11回全情報をまとめて手元に届けるという配信形態は捨て去るべきだ。」

ウェブで新聞のニュースが読めるようになって、人々のニュースの読み方が変わった。従来は紙の新聞の記事を受動的に読むだけだったが、ウェブでは能動的な読み方が可能になった。

「政治」、「経済」、「スポーツ」などのカテゴリーから読みたい分野を選び、各カテゴリーの目次から読みたい記事を選んで読むようになった。最新情報を知りたい人のために、各記事には、スポーツの試合の得点状況、台風の進路や被害状況などが刻々と反映される。そして、関連する記事を読みたい人のために、過去の関連記事のリストが添付されていて、いくらでも詳しく調べられる。

もはや、従来の新聞のように、平均的読者を想定して、一定のスペースに記事を詰め込んだものは読者の要望に応えられなくなった。読みたくない読者は記事を受け取らずに済み、詳しく知りたい読者には詳細情報を提供することが求められている。

(1) “Murdoch: The Daily Will Cost ~$56Million To Run In Year One”, Business Insider, Feb. 2, 2011

(2) “Murdoch’s the Daily won’t take off”, The Guardian, 16 July 2012


(4) “Press Release 12.03.2012 ”, News Corporation

2012年11月28日水曜日

「シンクライアントは、今・・・」のご紹介




オーム社の「OHM201211月号に掲載された上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要] シンクライアントは一時騒がれたわりには普及していない。そして、シンクライアントを取り巻く環境は、クラウドの流行、スマートフォンやタブレットの出現などで大きく変わった。その影響で、従来のシン クライアント・システムは変わっていく。しかし、やはり万能とは言えない。 ―――全文を読む

2012年11月26日月曜日

「YouTubeで外国語の固有名詞の読み方を調べよう」のご紹介

小生のウェブサイトの「言葉のメモ帳」に「YouTube外国語の固有名詞の読み方を調べよう」を掲載しました。
外国語の固有名詞読み方は辞書にも記されてないので分からないことが多い。しかし、YouTubeで検索すると現地でどう発音されているのか聞くことができる。将来、その言葉が出てくる箇所をピンスポットで視聴できるようになるとさらによい。--->全文を読む。 

2012年10月31日水曜日

「10年で1,000倍に! スーパーコンピュータの性能」のご紹介




(株)エム・システム技研の「エムエスツデー」201210月号に掲載された上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。

[概要] スーパーコンピュータは最近20 間、ほぼ10年で1,000倍のペースで高速化してきた。その実現方法も、汎用CPUやグラフィック用LSIの活用へと変わり、最近は1個のLSIに多数のCPUを搭載するメニーコア技術も使われている。今後は低価格化、ソフトの移行性の向上などが課題だ。―――全文を読む

2012年10月27日土曜日

「日本でもストリーミング配信が始まったが・・・」のご紹介




オーム社の「OHM201210月号に掲載された上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要] 日本でも、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなどがインターネットを使った 映像のストリーミング配信を始めた。しかし、特定の動画配信が特定の通信ネットワークでしか見られないのは不便だ。動画コンテンツの提供とそれをユーザーに届ける「土管」の提供は切り離すべきだ。 ―――全文を読む

2012年9月30日日曜日

「マイクロソフトとグーグル、ハード参入の真意は?」のご紹介





オーム社の「OHM20129月号に掲載された上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要] マイクロソフトもグーグルも元々ソフトやサービスの企業だが、両社とも本年6月にタブレットの販売を開始すると発表した。これがタブレットの市場に巻き起こす問題は? そして、両社の真意はどこにあるのだろうか? ―――全文を読む

2012年8月28日火曜日

「グーグルがプライバシーポリシーを変更!」のご紹介




オーム社の「OHM20128月号に掲載された上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要] グーグルは、従来サービスごとにバラバラだったプライバシーの扱いを一本化し、今後ユーザーごとに全ユーザー情報をまとめて管理するという。これは、サービスの向上につながるものだが、プライバシー侵害のリスクを高めるため、全世界のプライバシー保護団体が反発している。 ―――全文を読む

2012年8月19日日曜日

Galaxyを使ってみて(11)・・・暗中模索の事故対策



先日、突然「電話帳」の同期化ができなくなった。

Androidの「電話帳」(電話番号やメールアドレスのファイル)は、グーグルのサーバーに格納されている「Contacts」のコピーである。小生の使い方では、「Galaxyを使ってみて(9)・・・アドレス帳の1本化にチャレンジ」に記したように、大本のファイルはメール・クライアントのThunderbirdLDIFファイルだ。これをグーグルのサーバーのContactsにインポートしてある。LDIFファイルを更新したときは、旧Contactsをすべて削除して、新しいLDIFからインポートし、スマートフォンの電話帳をそれと同期化する。

いつもこうして使っていたが、先日突然この同期化ができなくなった。「現在一時的に同期化が使用できません。時間をおいて再試行して下さい」というようなメッセージが表示された。記憶によるため、文言は多少違ったかもしれない。ところが、何回同期化を繰り返しても現象は変わらない。

いろいろ調べているうちに、電話帳の中に、「グーグルのContactsの削除が多すぎます。このまま削除しますか?」というようなメッセージが残っていることが分かった。ファイルの更新時に旧Contactsをいったん全部削除したので、それがグーグルの気に入らなかったらしい。「削除する」と答えると、同期化が可能になった。

グーグルはなぜこんなことをするのだろうか? グーグルはサーバーのContactsをすべて削除するような使い方を想定してないのだろう。そのため、ユーザーが間違って削除を指定したのではないか、念のためユーザーに確認しているのだろう。パソコンなどで誤ってContactsの全削除を実行しても、スマートフォンで復元できるようになっているようだ。

誤操作が疑われるとき、ユーザーに再確認を要求するのは結構なことだ。しかし、何の詳細情報もなく、「一時的に同期化が使えません」だけでは何が問題なのか分からず、無駄に同期化を繰り返すことになる。

これに限らず、スマートフォンでは、事故が起きたとき詳細情報がまったくなく、手探りでいろいろやってみるしかないことが多い。Windowsなどに比べると、インターネットのフォーラムにも適切な情報が少ないようだ。事故対策はまさに暗中模索である。

スマートフォンのユーザーに詳細情報を知らせても、それを使いこなせる人は限られるため、このようにしているのだろう。しかし、何とかしてくれないと、暗闇でぶん殴られて途方にくれることが、今後もしばしば起きそうだ。

2012年8月18日土曜日

Galaxyを使ってみて(10)・・・突然初期画面に!



小生が使っているGalaxy SII1年前の118月に買ったもので、OSAndroid 2.3だった。

Androidには「ソフトウェア更新」という機能がある。小生はこれを、Windowsの更新機能などと同様に、バグの修正、あるいはちょっとした機能の改善で、バージョンアップとはまったく別物と考えていた。

ところが今月に入ってこれを実行したところ、やたらと時間がかかって、やっと完了すると、Android 4.0にバージョンアップされているので驚いた。マイクロソフトと違い、新バージョンを高いカネを取って売りつけるわけではないので、こうしてどんどん新機能をタダで提供してユーザーの満足度を向上させる方が得策なんだ!と、一応納得。

しかし、ここで大問題発生!

小生は、使い勝手がいいように、日常頻繁に使うアイコン(アプリケーションおよびウェブサイトのショートカット)をホーム画面に集め、次によく使うアイコンをアプリケーション画面の最初の数ページにまとめていた。そして、デフォルトで登録されているアイコンのうち不要なものはすべて削除していた。

ところが今回のソフト更新で、これらの設定がすべてリセットされ、購入時の初期状態に戻ってしまった。そのため、従来の画面の戻すのに大変な手間がかかってしまった。

これ以外の小生の設定は、アプリケーション・プログラム、電話帳、スケジュール、音楽、文書、写真など、当たり前の話だが、すべて元の状態が保持されているようだ。なぜアイコンの種類と表示場所だけリセットしてしまうのか不明だが、まったく不便極まりない。

どうもAndroidWindowsなどと違い、「ユーザーの意のままに」使うのがかなり困難なようだ。グーグルに身をゆだね、デフォルトの設定のまま使うのが、最も手間がかからず、一通りのことができるようになっている。「グーグルの意のままに」なることをあきらめるわけだ。

小生のように、メール、電話帳、音楽などについて、独自な使い方をしている人は、グーグルにとって歓迎されざるユーザーのようだ。今後もひどい目に会うことを覚悟しておく必要がありそうだ。

2012年8月11日土曜日

総務省がスマートフォンのプライバシー問題に関する提言を公表



総務省が「提言」を公表

総務省に「利用者視点を踏まえたICTサービスに係わる諸問題に関する研究会」というのがあるのだそうだ。どうしてこうも長ったらしい名前を付けるのだろう? 

それはさておき、この研究会に20121月「スマートフォンを経由した利用者情報の取扱いに関するWG」が設けられた。そして、そこでの検討結果が、本年87日「スマートフォン プライバシー イニシアティブ」として公表された。現在急速に普及しつつあるスマートフォンには、従来の情報機器とは別種のプライバシー問題があるため、その実情を調査し、今後の対応を提言するものだという。

スマートフォンが新たなプライバシー問題を引き起こしていることは、「プライバシー問題に新時代到来!・・・スマートフォンで」(オーム社、OHM20127月号)でも取り上げた。問題認識は両者ともおおむね同じである。今回総務省のWGが問題点を指摘し、今後の対応を提言したことは、一歩前進であり、評価できる。

しかし、その内容にはまだ物足りない点もある。何が問題なのだろうか?

広告目的なら何でも取得していいか?

スマートフォンの大きな問題は、機器内に個人の重要な情報が多数格納されていて、それをアプリケーション・プログラム(AP)で取得できることだ。取得目的を具体的に明確化することの必要性は本提案も指摘し、例えば「広告配信のため」と明示するべきだという。

しかし、「広告配信のため」と宣言すれば、何でも取得していいのだろうか? 実際に広告配信に使われているかどうかは第三者には検証できないので、これではほとんど無制限に何でも取得できることと変わらない。

ではどうするべきか? 取得情報は、APが宣言して利用者に伝えるだけでなく、利用者が個別情報ごとにそれを許可したときにはじめて取得できるようにすべきだ。あるAPにとって必要性が高い情報の取得を許可しなければ、サービスのレベルが落ち、最悪そのAPが使えなくなる。そして広告の配信に使われる情報の取得を拒否すれば、その人の趣味や行動にマッチした広告が表示されなくなる。しかし、これは利用者にとって、利便性、プライバシーの保護、いずれを優先するかの選択だ。現在のようにAPの提供者によって一方的に取得情報が決まる仕組みだと、利用者はそのAPを使うか使わないかの二者択一の選択しかできない。

パソコンで使われるウェブサイトには、ログインして使うか、ログアウト状態で使うかを、使うたびに選択できるものが多い。小生はグーグルのAPなどを、必要がない限りログアウト状態で使い、余計な情報を取得されないようにしている。しかし、スマートフォンのウェブサイトに対応したAPには、これができないものが多い。これも問題だ。

取得情報についての問題の解決のためには、こういう施策を要請する必要がある。

個人情報保護法との一元化が必要

一般的な個人情報の保護については個人情報保護法があり、本提案もこの法律との関連については何回も言及している。本提案は法制化については触れてないが、性善説頼りのガイドラインや指針などには限界があるので、将来法制化が問題になると思われる。その際は個人情報保護法との一元化の検討が必要であろう。

本提案はスマートフォンを対象にしているが、スマーフォンと同じiOSやAndroidOSとして使うタブレットなどでも同じ問題が発生するので、スマートフォンだけを対象にした別の法律を制定することは考えられない。

ルールの国際統一が必要だが・・・

本提案は国際的連携の必要性を強調している。スマートフォンには海外で開発された多数のAPが使われていることを考えれば、当然のことだ。また、悪意ある事業者には、日本で開発しても海外のサーバーを使って配信する者がいるので、他国の協力なしにはこの問題の抜本的解決はできない。

本提案は、各国間の政策協調などが重要だと言っているが、それ以上の提案はない。この問題の最も難しい点だが、この点の解決なしに、日本国内だけでいくら法整備やガイドラインの制定をしても、ほとんど意味をなさない恐れがある。

これは提言に過ぎない!

いずれにしれも、これは総務省内のWGの提言だ。ガイドラインや法律のベースとして、直ちに使えるようなものではない。問題点の指摘であり、提言に過ぎない。

しかし、これは重要な第一歩だ。今後これをどう育てるかが問題だ。今後の動きに注目しよう。

2012年8月4日土曜日

「『クラウド』、世界を覆う」のご紹介




(株)エム・システム技研の「エムエスツデー」20127月号に掲載された上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。

[概要] 近年、「クラウド」が大流行しているが、こういう通信回線経由でコンピュータを使うアイディアは、実は50年前からあった。では、最近のクラウドは何が違うのか? クラウドは、利点も多いが、問題点もある。データの消失、プライバシの侵害にご用心! ―――全文を読む

2012年8月2日木曜日

日本もファブレスとファウンドリの時代に



半導体工場の売却、縮小の報道が続々

本年727日の日本経済新聞によると、富士通が同社の半導体の主力工場である三重工場(桑名市)を世界最大のファウンドリである台湾のTSMCへ売却する交渉を進めているという。

一方で、富士通、ルネサス・エレクトロニクス、パナソニックの3社は、システムLSI部門を統合し、設計・開発に特化した新会社を設立する方向だという。大ファブレス企業の出現だ。

また、ルネサス・エレクトロニクスは元NECの半導体工場だった鶴岡工場をTSMCに売却する交渉をしているという。

そして、111023日の日本経済新聞は、パナソニックが同社の半導体工場の魚津工場と砺波工場の生産規模を縮小し、UMCTSMC等のファウンドリへの生産委託を増やすことを検討中だと報じた。

これらの報道の中には当事者によって否定されたものもある。しかし、交渉中の案件を当事者が否定するのは常だ。実現しないものもあるだろうが、何らかの検討が進んでいるものも多いと思う。

ファブレスとファウンドリへの2分化は不可避

米国等で半導体事業がファブレスとファウンドリに2分しつつあることは、「ファブレスとファウンドリ」(オーム社、OHM20067月号)で取り上げた。そこに、「現在の半導体メーカーの中には、中途半端な設備投資をするより、ファウンドリを使うことを考えた方がいいところもあるように思う。そして、最先端分野で活躍するファブレスが日本にももっと現れることが望まれる」と記した。それから6年経った現在、日本でもやっとこういう2分化の兆候が顕著になってきた。

半導体の製造事業には巨額な設備投資の継続が不可欠になった。そして、その投資に見合うだけの製品開発力、販売力が必要だ。それが1社で可能なのは、インテル、IBMなど、全世界でも一握りの企業だけになるだろう。それが不可能なら、ファブレスとファウンドリで分業するしかない。2009年にはAMDが製造部門をGlobalFoundriesとして切り離した。日本の企業もこういう動向から逃れられないだろう。

2012年7月31日火曜日

「プライバシー問題に新時代到来!・・・スマートフォンで」のご紹介



オーム社の「OHM20127月号に掲載された上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要] スマートフォンでは、利用者の「現在地」、「端末識別番号」などの情報をアプリケーション・プログラムで収集できる。 これは、主として的を絞った広告配信のためだが、他に悪用される リスクも大きいので注意が必要だ。 ―――全文を読む

2012年7月24日火曜日

「京」が真価を発揮するのはいつ?



「京」の活用計画が続々と登場

世界中のスーパーコンピュータの上位500システムのランク付けを、TOP500が毎年6月と11月に発表する。日本のスーパーコンピュータ「京」が、2011年の6月と11月のTOP500で世界一になった。この「京」は、20126月に動作確認試験を終えて完成し、同年9月から共用を開始するという。

「京」を使うプログラムの開発計画が時々報じられている。代表的なものを挙げよう。

2012222日の日本経済新聞によると、富士通と東北大学が3次元で津波の動きをシミュレーションするシステムを2012年度中に開発するという。実用になるのは2013年度以降だ。

また同記事によると、中外製薬などが東京大学と組んで20129月から抗がん剤の開発に着手するという。完成時期については触れてないが、少なくとも1年以上かかるとすれば、実用になるのは2013年度後半以降だ。

2012722日の同紙のよると、第一三共製薬は理化学研究所と、抗がん剤などの効果をシミュレーションするプログラムを20133月まで共同で研究するという。したがって、これも実用になるのは2013年度以降だ。

小生が時々目にするのは、こういう断片的な情報だけだ。他に、もっと早く「京」が真価を発揮するプロジェクトがあるのかもしれないが、上記の計画が新聞の見出しになっているところを見ると、これらが「京」の代表的な活用事例なのだろう。

2013年度というと、「京」が世界一に登録されてから2年後である。前にも記したように1年で2倍、10年で1,000になるスーパーコンピュータの世界では、スーパーコンピュータの価値は1年で1/22年で1/4になる。1,000億円以上の国費を投じたプロジェクトを、もっと早く成果に結びつける方法はないものだろうか?

ハードとソフトの開発は並行して!

ポスト『京』の課題・・・次期スーパーコンピュータ」(オーム社、OHM201110月号)に、「ハードウェアの開発が先行して、アプリケーション・ソフトなどを含んだエコシステムの構築にその完成後12年かかれば、スーパーコンピュータとして真に戦力になるときには、その価値は1/21/4に落ちていることになる」と記した。やはり、この懸念が現実になりつつあるようだ。

それを回避するためには、上記記事にも記したように、スーパーコンピュータ群が一つのエコシステムを形成していて、その中には性能が高いものも低いものもあるが、同じアプリケーション・ソフトが使えることが重要だ。そうなっていれば、そのエコシステム内では、格段に性能が高い新製品が登場しても、直ちに真価を発揮できる。

従来のメインフレームやサーバー/パソコンの世界では基本的にこれが実現されていて、新機種に入れ替えれば直ちにその性能を生かすことができる。一つのアプリケーション・ソフトは、同じエコシステムに属する限り、日本製、韓国製、台湾製の上位機、下位機を問わず、いずれのコンピュータでも使え、また一つのコンピュータは、同じエコシステムの全アプリケーション・ソフトを使うことができる。

エコシステムの世界では、一つのハードウェア専用のアプリケーション・ソフトの開発ということはあり得ない。こういうアプリケーションを作ったら、次世代のハードでまた作り直す必要があり、他の機関とソフトを融通しあうこともできないからだ。

実は、上記の津波シミュレーションの事例の富士通による正式発表には、「京」は一言も出てこない。こういうソフトの開発が「京」だけを念頭に置いたものであってはならないので、当然なことだ。にもかかわらず、新聞の見出しは「スパコン『京』で最先端へ」であり、記事にも「『京』を使った研究プロジェクトが始動する」とある。不思議に思って調べると、発表会に同席していた東北大学の教授が、このソフトは、PCクラスタでも「京」のような環境でも稼動可能だと言ったのが元のようだ。[Tech-On (2012/02/22)]記者は「京」を見出しに使うことでニュースの価値が上がると思ったのかもしれないが、してはいけないことをしていると書かれた当事者にとっては迷惑な話だ。

理化学研究所が、性能が1/1,000程度の「京」のミニ版を20132月頃、無償で開放するという。これは「京」と互換性があり、「京」用のソフトの開発に使えるということだ。[読売新聞201264日]本来、こういうソフト開発用のミニ版は、本物が現れる12年前に提供されることが望ましい。そうすれば、ミニ版でソフトを開発しておき、本物が現れたときはすぐその真価を発揮できる。従来のソフト資産が使えないハードを開発するときは、そういう配慮が必要だ。そうしないと、ハード完成後ソフトができるまでの間、資産を寝かせることになり、またその間にハードが陳腐化する。

いずれにしても、スーパーコンピュータといえども道具の一つに過ぎない。ノコギリやカンナが家を建てるのに使われて初めて意味があるのと同様に、スーパーコンピュータは津波や新薬のシミュレーションに使われて初めて人類に貢献する。スーパーコンピュータの開発自体が自己目的化してはならない。