2015年1月8日木曜日

1995年のSteve Jobsのインタビューを聴いて


インタビューのテープが見つかる

アップルの創業者Steve Jobsの1995年のインタビューのテープが長年行方不明になっていたが、最近見つかり、2012年に「Steve Jobs  The Lost Interview」として公開された。それを、2014年12月21日にWOWOWが放映していたので、録画しておいて聴いてみた。

インタビューしたのはRobert CringelyというIT関係のジャーナリストである。

Jobsは21歳の1976年にアップルを起業し、30歳の1985年に自分が作った会社を追い出された。インタビューは 、それから10年経った40歳の時のものだ。当時アップルは経営難で危機に瀕していた。

インタビューの翌年の1996年にJobsはアップルに復帰し、その後、iMac、iPod、iPhone、iPadと立て続けに発表して、時価総額が世界最大の企業にまでなった。

そして、Steve Jobsは2011年に56歳でガンのため死去した。

このインタビューの1995年にはアップルへの復帰の話はまだなかったと思われるため、アップルの関係者や同業者に対する遠慮もあまりなく、歯に衣着せぬ発言が随所に聞けて興味深い。

その中から、小生が特に印象深く感じた点を取り上げよう。

以下「 」内はJobsの発言だが、前後している断片的な話をまとめたり、日本の読者に分かりやすいように意訳したりしているので、文責は小生にある。また、Jobsが使った生々しい英語の表現を意図的にそのままにしてあるところもある。

10分でGUIの真価を見抜く

1979年にJobsはゼロックスのPARC (Palo Alto Research Center)を訪問した。そこで、オブジェクト指向言語、ネットワーク、GUI (Graphical User Interface)の3種の新技術について説明を受けた。Jobsはそれを聞いて、「他のものはともかくとして、GUIに、10分間で将来のコンピュータの姿を見た」という。

関係する技術者を引き連れて再度PARCを訪問し、その技術を自社のLisaやMacintoshに取り入れた。そして、それが今日のパソコンのGUIへと発展した。

ゼロックスはAltoという製品でGUIを採用したが、これは名前通り高すぎて(「alto」はスペイン語で「高い」の意)、あまり売れなかった。GUIの真価を見抜き、市場が受け入れる価格でその提供を始めたのはJobsだ。

John Sculleyに追い出される

会社の規模が大きくなったため、Jobsは1983年に、ペプシコーラの社長をしていたJohn Sculleyを会社経営のプロとして招き、CEOにした。

当初はJobsとSculleyの役割分担がうまく機能していたようだが、経営的に厳しい局面を迎えると、二人は対立を深めていった。

Jobsは言う、「IBMやペプシのように製品が確立している大企業では、マーケティングや営業が重要なことは確かだ。しかし、アップルのような新興企業では、製品開発力、それを支える"sensibility"や"genius"などの方がはるかに重要なのだ」

「自分が希望する方向に向かってロケットを飛ばしてくれるなら、自分は喜んで会社を辞めた。しかし、Sculleyのロケットは発射する方向が間違っていた。10年かかって作り上げた会社をすべて壊され、ロケットは墜落してしまった」

「Sculleyにとって最も重要なことは、CEOであり続けることだった。そのために悪役を作ろうとした。彼は信じがたいような生存本能の持ち主だった。そうでなければ、ペプシの社長にはなれなかったのだろう」
 
Sculleyは結局、このインタビューの2年前の1993年に、経営の責任を取って辞任した。

IBMのパソコンを見誤る 

アップルに遅れて、1981年にIBMがパソコンに参入した。「当初のIBMのパソコンは"terrible"で"really bad"だった」とJobsは言う。しかし、続けて言う、「これを甘く見たのは大きな誤りだった。IBMのパソコンには多くの味方が付いたのだ」

IBMのパソコンは、オープン戦略で多くの企業を味方につけ、またたく間に周辺機器やアプリケーションソフトの品揃えでアップルを抜いた。両社の戦略の違いの意味を十分に理解していなかったことをJobsは率直に認めている。

マイクロソフトに罵詈雑言

「マイクロソフトのパソコンが成功したのは、IBMのブースターによって打ち上げられたロケットだったからだ。マイクロソフトの製品自身は"no taste"で、"original idea"も"spirit"もなく、"third-way product"(右でも左でもない折衷案的な製品だという意味だと思う)ばかりで、マクドナルドと同じだ」

「(こういう製品が世界を制覇するとは、)人類の将来を考えると悲しくなる。もっと"insight"と"creativity"が欲しい」

言い方はさておき、同感の人も多いのではないかと思う。マイクロソフトには、全世界に事実上の標準をもたらしたという大きな功績もあるのだが、Jobsの評価はまことに容赦ない。

次世代はウェブだ! 

司会者に「10年後には何が重要か?」と聞かれて、次のように言っている。

「ウェブが重要になる。パソコンの主な仕事は計算から通信に変わる。現在米国の小売りの15%がカタログによる通信販売だが、これがウェブに変わる。何10億ドルというビジネスがウェブ上にできるだろう。ウェブが全産業のドアを開けることになる」

このインタビューは、ウェブの最初の実用的なブラウザであるNetscape Navigatorが1994年に出た翌年である。Steve Jobsはやはりずばぬけたヴィジョナリーだったのだ。

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