2015年1月28日水曜日

「テレビゲームがITの新時代を切り開いた!」のご紹介

(株)エム・システム技研の「MS TODAY」2015年1月号の上記記事が小生のウェブサイトに掲載されました。
[概要]
1983 年のファミコンの発売以来、テレビゲームは、画面のカラー化、レスポンスの高速化、マニュアルレス化、ソフトの有償化などの面でコンピュータの世界の先陣を切ってきた。最近はさらに、加速度センサ、ジェスチャー入力などの新技術を取り込みつつある。 --->全文を読む

Windows 10の無料化にご用心!


Windows 10が無料に!

マイクロソフトは2015年年1月21日に、次期OSのWindows 10へのアップグレードを無料にすると発表した。Windows 7やWindows 8.1を使っている個人ユーザーが、Windows 10のリリース後1年以内にアップグレードする場合を対象にするという。

従来、一つのバージョン内でのバグの修正やセキュリティの改善は無料だったが、今後は一定期間内は無料で機能の追加・改善も行い、常に最新状態に保つようにするという。

なぜ無料にしたのか? 

 今回の発表では、今後有料の新OSへの切り替えがどういう間隔になるのか不明だが、マイクロソフトにとって減収になるのは確実だ。にもかかわらず、このように戦略の大変更を決断したのはなぜなのだろうか? 限られた発表内容から推測してみよう。

OSの更改を促進するため

まず第1に考えられるのは、2012年10月にリリースされたWindows 8の評判が極めて悪かったことだ。そのため、急遽翌年10月にWindows 8.1を出したが、根本的な問題はまだ解決されていない。

こういう状況から一日も早く脱却しないと、マイクロソフトの評判を落とすと判断したのだと思われる。そして、全世界で使われているWindows 8.1などを一刻も早くWindows 10に切り替えてもらうには、期限を切ってアップグレードを無料にするのが最も有効だと判断したのだろう。

グーグルやアップルに対抗するため

最近は、スマートフォンやタブレットの伸びが著しく、それらに使われるOSとしては、アップルのiOSやグーグルのAndroidが圧倒的に多い。そして、iOSやAndroidは毎年のように無料でアップグレードされる。

また2013年からアップルはパソコン用のOS Xも無料でアップグレードできるようにした。

今後の成長が期待できるスマートフォンやタブレットの市場で、マイクロソフトはシェアを伸ばせず苦戦している。そこで、グーグルやアップルに匹敵するシェアを獲得するには、マイクロソフトも頻繁にOSをアップグレードするとともに、それを無料にすることが不可欠だと判断したのだろう。

マイクロソフトは、スマートフォンやタブレットでのシェアの獲得にパソコンでの圧倒的なシェアを活用するため、今回Windows Phoneを止め、Windows 10でパソコンからスマートフォンまですべてカバーするようにした。スマートフォンやタブレットはARM系のプロセッサを使うため、OSの作りは別になるが、ユーザーから見た統一性を向上することによって、iOSやAndroidとの差別化を図ろうという意図だと思われる。
  
製品の販売からサービスの提供へ

従来、ソフトのビジネスは、媒体に書き込んだパッケージソフトの販売が中心だった。しかし近年は、ソフトをサービスとして提供し、使った分だけ費用を請求するクラウドサービスが普及してきた。いわゆるSoftware as a Service (SaaS)である。

そして、そこまで行かなくても、販売したソフトを自動または半自動的に更新して、常に最新の状態に保ち、機能の充実、信頼性の向上を図ることが一般化してきた。特に、スマートフォンやタブレットのソフトではこれが普通で、知らないうちに変わっていることが多い。つまり、サービスとしての提供に一歩近づいてきている。

こういう状況になると、従来のように数年に1回の有料アップグレードの時にしか機能を強化しないのでは競争力を維持できなくなる。今回のマイクロソフトの戦略変更の背景には、こういう時代認識があるのではないかと思われる。

マイクロソフトはすでにワードプロセッサや表計算のソフトのSaaSでの提供を始めている。今回の発表時の質疑応答で、Windowsは将来SaaSになる可能性があるかという質問に対し、マイクロソフトのナデラCEOは、「今日の発表は基本的なビジネスモデルの変更を意味するものではない」と否定したという(1)。しかし、将来の可能性としてはそういうこともあり得ると考えているかもしれない。

ユーザーや関連企業への影響は?

では、今回のマイクロソフトの戦略変更は、ユーザーや関連企業にどういう影響を与えるだろうか?

ユーザー: アップグレード時期の自由度が奪われる

従来、数年ごとにリリースされる新バージョンに対し、不要ならアップグレードを見送り、旧バージョンを使い続けてきた人は多い。費用や手間を節約するためだけでなく、新製品に付きもののバグによる被害を避けるためだ。

それだけでなく、新バージョンでは従来使ってきた機能が使えなくなることがままある。最近の例では、Windows 8で従来のデスクトップ画面がなくなってしまったのが極端なケースだ。これはさすがに翌年Windows 8.1で復活したが。

特に不自由なく使っているソフトは、こういうリスクを冒してまでアップグレードしない方が一般的に得策である。いわばシステムを「塩漬け」にして使い続けるのだ。小生が使っているソフトには、こうしてアップグレードせずに10年以上使い続けているものも多い。

ところが今回の方針変更で、バグの修正と新機能の追加がともに無料になって頻繁に行われるようになると、新機能の使用を拒否することが難しくなる恐れがある。

ユーザーはマイクロソフトに対し、従来以上に「一蓮托生」にならざるを得なくなる。これは、スマートフォンやタブレットの時代の必然なのかもしれないが。 

関連ハード、ソフトのベンダー: OSの新バージョンに便乗した拡販が不可能に

従来、OSの新バージョンのリリースに合わせて周辺機器やアプリケーションソフトの新製品を発売し、OSの新バージョンでは旧製品を使えなくして、半強制的に新製品に買い替えさせてきたベンダーが多い。新製品と言っても、新機能はほとんどなく、OSの新バージョンに便乗して名前だけの新製品を発売する企業も見受けられた。

今回のマイクロソフトの戦略変更で、OSの機能の追加・変更が小出しに行われるようになるため、こういう便乗商法が難しくなる。

従来ハード、ソフトのベンダーは、新OSとの整合性の確認費用をこういう方法で回収してきた。今後は、機能の追加・変更の頻度の増加に伴い、整合性確認業務が増えるが、こういう方法での費用の回収は困難になる。

ハード、ソフトのベンダーは、今後OSとは独立して独自の間隔で新製品を発売する必要に迫られる。これは、まともな姿になるだけだが。

パソコンメーカー: パソコンの買い替え間隔が長期化

従来、Windowsの新バージョンのリリース間隔は一部を除き3~5年だった(2)。そして、新バージョンになるたびに、OSもアプリケーションソフトもより大容量のメモリを要求した。一方、パソコンのメモリ容量や通信速度の進歩も激しかったため、Windowsの新バージョンに合わせてパソコンを買い替える人が多かった。

そして、Windowsを自分でインストールするのは手間がかかるため、Windowsがプリインストールされたパソコンの販売が一般化した。こうして、Windowsとパソコンが足並みをそろえて切り替えられてきた。

ところが今回のマイクロソフトの方針変更で、アップグレードが数年に1回の大行事から、毎年のように行われる小さな出来事に変わる。そして、有料の新OSの発売間隔が今後どうなるのか不明だが、少なくとも従来より相当長くなると思われ、その間細かい機能の追加・変更は無料で行われるようになる。

そのためユーザーがパソコンの買い替えの必要性を感じる間隔が従来より長くなると思われる。また、ハードウェア技術の進歩も減速してゆくので、ハード面からも頻繁に買い替える必要性をあまり感じなくなる。

こうしてパソコンを買い替える間隔が延び、パソコンメーカーの減収を招く恐れがある。

[関連記事]

(1) "Microsoft: Windows 10, it's on us", Computerworld

(2) "Windows lifecycle fact sheet", Microsoft


2015年1月8日木曜日

1995年のSteve Jobsのインタビューを聴いて


インタビューのテープが見つかる

アップルの創業者Steve Jobsの1995年のインタビューのテープが長年行方不明になっていたが、最近見つかり、2012年に「Steve Jobs  The Lost Interview」として公開された。それを、2014年12月21日にWOWOWが放映していたので、録画しておいて聴いてみた。

インタビューしたのはRobert CringelyというIT関係のジャーナリストである。

Jobsは21歳の1976年にアップルを起業し、30歳の1985年に自分が作った会社を追い出された。インタビューは 、それから10年経った40歳の時のものだ。当時アップルは経営難で危機に瀕していた。

インタビューの翌年の1996年にJobsはアップルに復帰し、その後、iMac、iPod、iPhone、iPadと立て続けに発表して、時価総額が世界最大の企業にまでなった。

そして、Steve Jobsは2011年に56歳でガンのため死去した。

このインタビューの1995年にはアップルへの復帰の話はまだなかったと思われるため、アップルの関係者や同業者に対する遠慮もあまりなく、歯に衣着せぬ発言が随所に聞けて興味深い。

その中から、小生が特に印象深く感じた点を取り上げよう。

以下「 」内はJobsの発言だが、前後している断片的な話をまとめたり、日本の読者に分かりやすいように意訳したりしているので、文責は小生にある。また、Jobsが使った生々しい英語の表現を意図的にそのままにしてあるところもある。

10分でGUIの真価を見抜く

1979年にJobsはゼロックスのPARC (Palo Alto Research Center)を訪問した。そこで、オブジェクト指向言語、ネットワーク、GUI (Graphical User Interface)の3種の新技術について説明を受けた。Jobsはそれを聞いて、「他のものはともかくとして、GUIに、10分間で将来のコンピュータの姿を見た」という。

関係する技術者を引き連れて再度PARCを訪問し、その技術を自社のLisaやMacintoshに取り入れた。そして、それが今日のパソコンのGUIへと発展した。

ゼロックスはAltoという製品でGUIを採用したが、これは名前通り高すぎて(「alto」はスペイン語で「高い」の意)、あまり売れなかった。GUIの真価を見抜き、市場が受け入れる価格でその提供を始めたのはJobsだ。

John Sculleyに追い出される

会社の規模が大きくなったため、Jobsは1983年に、ペプシコーラの社長をしていたJohn Sculleyを会社経営のプロとして招き、CEOにした。

当初はJobsとSculleyの役割分担がうまく機能していたようだが、経営的に厳しい局面を迎えると、二人は対立を深めていった。

Jobsは言う、「IBMやペプシのように製品が確立している大企業では、マーケティングや営業が重要なことは確かだ。しかし、アップルのような新興企業では、製品開発力、それを支える"sensibility"や"genius"などの方がはるかに重要なのだ」

「自分が希望する方向に向かってロケットを飛ばしてくれるなら、自分は喜んで会社を辞めた。しかし、Sculleyのロケットは発射する方向が間違っていた。10年かかって作り上げた会社をすべて壊され、ロケットは墜落してしまった」

「Sculleyにとって最も重要なことは、CEOであり続けることだった。そのために悪役を作ろうとした。彼は信じがたいような生存本能の持ち主だった。そうでなければ、ペプシの社長にはなれなかったのだろう」
 
Sculleyは結局、このインタビューの2年前の1993年に、経営の責任を取って辞任した。

IBMのパソコンを見誤る 

アップルに遅れて、1981年にIBMがパソコンに参入した。「当初のIBMのパソコンは"terrible"で"really bad"だった」とJobsは言う。しかし、続けて言う、「これを甘く見たのは大きな誤りだった。IBMのパソコンには多くの味方が付いたのだ」

IBMのパソコンは、オープン戦略で多くの企業を味方につけ、またたく間に周辺機器やアプリケーションソフトの品揃えでアップルを抜いた。両社の戦略の違いの意味を十分に理解していなかったことをJobsは率直に認めている。

マイクロソフトに罵詈雑言

「マイクロソフトのパソコンが成功したのは、IBMのブースターによって打ち上げられたロケットだったからだ。マイクロソフトの製品自身は"no taste"で、"original idea"も"spirit"もなく、"third-way product"(右でも左でもない折衷案的な製品だという意味だと思う)ばかりで、マクドナルドと同じだ」

「(こういう製品が世界を制覇するとは、)人類の将来を考えると悲しくなる。もっと"insight"と"creativity"が欲しい」

言い方はさておき、同感の人も多いのではないかと思う。マイクロソフトには、全世界に事実上の標準をもたらしたという大きな功績もあるのだが、Jobsの評価はまことに容赦ない。

次世代はウェブだ! 

司会者に「10年後には何が重要か?」と聞かれて、次のように言っている。

「ウェブが重要になる。パソコンの主な仕事は計算から通信に変わる。現在米国の小売りの15%がカタログによる通信販売だが、これがウェブに変わる。何10億ドルというビジネスがウェブ上にできるだろう。ウェブが全産業のドアを開けることになる」

このインタビューは、ウェブの最初の実用的なブラウザであるNetscape Navigatorが1994年に出た翌年である。Steve Jobsはやはりずばぬけたヴィジョナリーだったのだ。

2015年1月4日日曜日

一人我が道を行く「京」?


毎年6月と11月に、全世界のスーパーコンピュータの上位500システムが「TOP500」として発表される(1)。最近の状況は何を物語っているだろうか?

90%以上が汎用CPUを使用 

2014年11月の「TOP500」では、X86系の汎用CPUを使ったものが、上位500システム中457システム(91.4%)を占めた。

その他はスーパーコンピュータ用に開発されたCPUを使ったものである。IBMのPower系が39システム、「京」などで使われている富士通のSPARC系が3システム、中国製が1システムで、合わせて43システム(8.6%)に過ぎない。

このうちPowerは、元々はスーパーコンピュータ 用として開発されたものではないが、現在スーパーコンピュータの上位500システムに使われているものは、すべてスーパーコンピュータ用に開発されたものだ。

このように近年、汎用CPUを使ったスーパーコンピュータの比率がどんどん増えてきた。これは、汎用CPUの性能向上と、量産効果による価格低減で、特殊なCPUを使うより費用対効果が優れているためだろう。

演算の主役はGPUに

X86系CPUを使っている457システム中75システムは、X86系CPUとともにGPUという汎用のグラフィック用LSIを使っている。しかし、上位10システムに限れば、X86系は半分の5システムだが、これらはすべてGPUを併用している。

CPUとGPUを併用したシステムでは、演算は主としてGPUで行われるものが多い。汎用CPUを使ったスーパーコンピュータが多いといっても、主役はGPUのものが近年増えている。

上位500システムで使われているGPUは、Nvidiaが50システムで最も多く、インテルのXeon Phiの25システムがこれに続いている。中には両方とも使っているシステムもある。

CPUとGPUを併用したものは、2種の演算回路を使い分けるヘテロジニアスなスーパーコンピュータの一種である(2)。

「京」は市場競争にさらされてない特異な存在

前記のように、汎用CPUを使ってないスーパーコンピュータは上位500システム中43システムだけだ。そのうち、前世紀末からPowerプロセッサを使っているIBMが39システムで、これを別格とすると、残りは4システムだけである。

そのうち3システムは、理化学研究所(理研)の「京」と、それと同じ技術を使った東大と九大のシステムなので、「京」ファミリは全世界のスーパーコンピュータの中で極めて特異な存在であることが分かる。そして、2020年頃を目標に開発を進めているポスト「京」も「京」と同様な方式だという。どうしてこういうことになったのだろうか?

国家予算によるスーパーコンピュータの調達や開発は、納税者の立場に立てば、もっとも価格性能比が優れた方式を採用してもらいたい。しかし、「京」を推進している文部科学省や理研はスーパーコンピュータの調達者であるとともにその開発者でもあるので、方式選定に当たって、市場原理が十分に働いてないためだと思われる。

スーパーコンピュータの開発計画は、必ずしも短期的な市場競争だけでは決められないだろう。しかし、スーパーコンピュータの調達に当たっては、あくまでも価格性能比重視の市場原理が十分に働く仕掛けを作っておかないと税金の無駄遣いを招く恐れがある。

 「京」/ポスト「京」は市場競争にさらされてない特異な存在であることをよく認識しておく必要がある。

メニーコアがもう一つの主役に 

上位10システム中5システムがX86系以外のCPUを使っている。そのうち4システムはIBMのBlue Jene/Qを使っていて、残る1システムが「京」だ。Blue Gene/Qは1LSIにPowerのプロセッサコアを18個並べたものである。また、「京」のチップは現在8コアだが、これはポスト「京」に向かって16コア、32コアとコア数を増やしていくという(3), (4)。

プロセッサのLSIは複数個のプロセッサコアを持つのが普通になり、マルチコアと呼ばれている。そして、プロセッサコアの数が十数個以上と多いものはメニーコアとも呼ばれている。

ムーアの法則もそろそろ限界に近付いてきたため、さらに性能を上げる一つの方法として、このメニーコアが現在いろいろな機関で検討されている。 IBMは1999年以来Blue Geneプロジェクトに取り組んできた。オラクル、富士通などもこの技術を採用している。今後さらに広まるものと思われる。 

メニーコア時代の先行投資

スーパーコンピュータの現状を見ると、ここしばらくは汎用CPUを使う方式が価格性能比上有利なようだ。しかし、今後はメニーコア化の必要性がさらに高まるものと思われるため、IBMや富士通がメニーコア化に挑んでいるのは、短期的にはさておき、長期的には意味があると思われる。

但し、IBMはPower系のコアを使っていて、他社にも提供する意向を表明しており(5)、プロセッサコアとしてはこのほかに、ARM系、X86系なども考えられるので、SPARC系が生き残れるかどうかは不明である。1種類だけになれば独占による弊害を免れないが、ITの世界では最終的には事実上の標準が確立し、1種類に収斂してしまうことが多い。

[関連記事]

(1) "TOP500", TOP500.org
(2) 酒井 寿紀、「続・ポスト「京」の課題・・・ホモジニアスかヘテロジニアスか?」、OHM、2011年11月号、オーム社
(3) "SPARC64TM IXfx", FUJITSU
(4) 「FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC FX100」、富士通 
(5) "Google, IBM, Mellanox, NVIDIA, Tyan Announce Development Group for Data Centers", 06 Aug 2013, IBM