2016年3月2日水曜日

仮想通貨が「モノ」から「通貨」に!?


「モノ」か、「通貨」か?

ビットコインに代表される仮想通貨については、これを貴金属や宝石のような「モノ」の一種として扱うべきか、それとも、円やドルのような「通貨」の一種として扱うべきかという議論が続いてきた。

「モノ」として扱えば、その売買は一般の商品の売買と同じように、消費税や付加価値税などの課税対象になる。一方、「通貨」として扱えば、こういう税金はかからないが、キャピタルゲイン課税対象になる可能性がある。こうして「モノ」か「通貨」かで、税金上の扱いが変わり、管轄する政府機関も変わってくる。

仮想通貨は、そもそも現行通貨の代替品として考案されたものなので、これを「モノ」として扱うには無理があることを前に記した(1)。しかし、日本などの政府は、これを「通貨」の一種として認めることをかたくなに拒んできた。こんな得体の知れないものに金融行政をかき回されることを是非とも避けたいと思ったからだろう。

しかし最近、金融庁は従来のスタンスを変更した。 

金融庁がスタンスを変更 

金融庁の金融審議会が2015年12月に発表した報告書によると、同庁は、今後仮想通貨を通貨の一種として扱い、金融行政の規制の対象にするという(2)。

具体的には、仮想通貨と通常の通貨の交換を行う取引所を登録制にし、取引所には、利用者の本人確認、取引記録の作成と保存、疑わしい取引の当局への届出などを義務付けるということだ。

2016年の通常国会に資金決済法の改正案を提出し、成立を目指すということである。 

外圧が決め手?

金融庁、2014年にビットコインの取引所であるマウントゴックスの不正が露見した際も、仮想通貨の規制を強化する動きを見せなかった。にもかかわらず、今回規制強化を推進しようとしているのはなぜだろうか?

1989年のG7サミットでFATF (Financial Action Task Force)という機関が設立され、麻薬犯罪組織によるマネーロンダリングやテロ組織による資金集めを阻止する活動をしている。このFATFが2014年6月に、仮想通貨がマネーロンダリングやテロ組織の資金集めに利用される恐れがあると警告を発した(3)。

それを踏まえて、2015年6月ドイツで開催されたG7サミットで、仮想通貨の規制強化によってテロリストへの資金供給の遮断を図る必要があるという首脳宣言が出された(4)。

金融庁が、今回、従来あまり積極的ではなかった仮想通貨の「通貨」としての規制強化に乗り出したのには、この安倍首相も出席したサミットの決議が大きく影響したのではないかと思われる。

日本政府の方針が外圧によって大きく変わるのは、幕末に黒船の来航で開国が進んだ時代からあまり変わってないようだ。 

「モノ」としての扱いも継続? 

こうして日本でも仮想通貨が通貨の一種として扱われるようになるようだ。しかし2016年2月29日の日経新聞によると、仮想通貨の売買に「モノ」として消費税が課税されるのは従来のままだという(5)。

通貨の一種として扱うということは、日本円の世界から見れば、仮想通貨を外貨の一つと見るということだ。したがって、仮想通貨の売買に消費税を課税するということは、外貨の売買に消費税を課税するということになる。これは明らかにおかしい。

国税庁は、税金が取れるものには何でも課税して、税収を確保するのが仕事かもしれないが、より高い財政・金融行政全体の見地から判断する必要がある
 
現在の日本には根本的に欠けているものがあるようだ。

将来の望ましい姿の考察を!

小生が2年前に執筆した記事で、米国のバーナンキ前FRB議長の、「仮想通貨は将来、迅速で、安全で、効率のよい決済手段を提供するようになる可能性がある」という見解を紹介した(1)。

また同記事で、米国のカーパー上院議員の、「過剰な規制によって、ゆりかごの中の赤ん坊を殺すようなことをしてはならない」という意見にも触れた(1)。

一方、マウントゴックスの破綻に際し、意見を求められた麻生太郎財務大臣は、「こんなものは長く続かないと思っていた。どこかで破綻すると思っていた」と述べたという(6)。

仮想通貨は、従来なかったまったく新しい決済手段の可能性を提示した。そのため、これを含めた財政・金融の将来の望ましい姿を真剣に考察する必要がある。

もちろん、現在いくつかの国が行っているように、「全面禁止」も選択肢の一つである。しかし、徴税機関などの一組織にすべての判断をゆだねていい話ではない。

日本では、バーナンキ前議長やカーパー議員のような話がさっぱり聞こえてこないことを非常に残念に思う。

(1) 酒井 寿紀、「続:成るか、ビットコインによる通貨革命?」、OHM、2014年5月号、オーム社
(2) 金融審議会、決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ報告」、2015年12月22日、金融庁 
(3)  FATF, "Guidance for a Risk-Based Approach  Virtual Currencies", June 2015
(4) 「2015 G7エルマウ・サミット首脳宣言(仮訳)」、2015年6月8日、外務省
(5) 「ビットコイン非課税化の議論 税収か国際競争力か」、2016年2月29日、日本経済新聞
(6) 「ビットコイン「破綻すると思っていた」 麻生財務相」、2014年2月28日(夕刊)、朝日新聞 

ビットコインを中心とする仮想通貨全般の現状や問題点については下記もご参照下さい。

(7) 酒井 寿紀、成るか、ビットコインによる通貨革命?」、OHM、2014年4月号、オーム社
(8) 酒井 寿紀、続々:成るか、ビットコインによる通貨革命?」、OHM、2014年6月号、オーム社